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例示字形変更による日本語破壊の怪

Author
tomo
Authorised Time
2005-08-21 21:48:50+09:00
Category
調査批評

Microsoft社が同社の次期OSをJIS X 0213:2004対応させ、搭載フォントも同規格の例示字形に合わせたものにするという話が一部で議論の的になっています。 この字形変更は経済産業省が国語審議会で答申した表外漢字字体表の印刷標準体に改めるべく168字の例示字形を変更したことを受けてのもので、無論米 Microsoft社の独自仕様などではないにも拘わらず、何故か同社を目の敵にしている人の極めて的外れな批判の影響も手伝ったのでしょうか、同社に責任を擦り付けるキャンペーンはけっこうすさまじいものになっています。

しかし、今回の例示字形変更、元はと言えばJIS X 0213:2000、通称2000JISで俗字や誤字でシフトJISの未定義領域を埋め尽くして正字の追加を不可能にするという暴挙に出たため、文学界やマスメディアがこぞって「漢字を守れ」キャンペーンをぶち上げた騒動を経て、ついに正字が採用されたという経緯があるのです。 この辺りの経緯はOpen ブログでの当事者による記事に詳しいですが、そもそもの問題はJIS X 0208の例示字体に略字や誤字、噓字がままあって、相当する正字の方が規格から漏れていた事にあります。 当然、国語審議会の「表外漢字字体表」にも準拠していないし、正しい日本語表記が出来ませんでした。 この問題を解決するものが、今回米 Microsoft社も従ったJIS X 0213:2004の例示字形です。

例示字形はあくまで例示に過ぎず、包摂基準内の字形の違いは同一コードポイント上で許容されるので、必要に応じて好きなフォントを選択して字形を選べば良いのですが、それではメールなど素のテキスト情報では字形の区別がつきません。 …そんなもん、包摂基準範囲なんだから区別がつかないのは当たり前なのですが、何故かこの件について、包摂基準を定め、それに従い文字セットを定義したJISにではなく、その文字セットを採用した米 Microsoft社に矛先が向かっているのが不思議なところ。 包摂した上で例示字形をどちらかにするという点ではJIS X 0213:2004と全く同じで、例示字形が略字ないし誤字の方であったJIS X 0213:2000を、当時既に不採用が決まった符号化方法ごと採用し、一般ユーザから正字使用の可能性を排除する方針を早々と表明していた米 Appleに対し、日本文化の破壊云々といった抗議の声は殆ど無かった。 正字と略字&誤字のどちらかしか選べない状況なら、JIS X 0213:2000と米 Apple社による略字&誤字陣営よりは、JIS X 0213:2004と米 Microsoft社による正字陣営を選ぶでしょう。 尤も、どちらかしか選べないのではなく、包摂基準範囲内ならどれでも選べるのですが。

包摂してしまった事自体が問題だという意見もあり、これには一理あります。 しかし、言うのが遅すぎました。

既に述べた通り、JIS X 0213:2000の時点で問題の文字達は既に包摂済で、おまけに例示字形が略字や誤字でした。 例えば何かと話題になる「辻」の字ですが、この時点で「二点之繞の辻󠄁さんが正しく名前を表示できないのは人権侵害です」という騒ぎにはなっていません。 これは当然で、何故ならJIS X 0213:2000より以前から既に包摂済で、しかも例示字形が一点之繞の辻󠄀だったからです。 もともとコンピュータで扱える字形はフォント作成業者など他人任せのもので、二点之繞の辻󠄁さんの姓を厳密に正しい字形で表示できないのも、「所詮パソコンなんてそんなもの」という事で許容されてきた。 許容されてきたのに、例示字形が変わっただけで、一点之繞の辻󠄀さんが怒って来ました…いや、辻󠄀さん自身が怒ったのではなく、「辻󠄀さんが怒る」と引き合いに出されました。

これまで二点之繞の辻󠄁が例示字体に採用されていない時には素通りし、その例示字体のまま、未定義領域を埋め尽くして別のコードポイントに正字を登録する可能性を排除したJIS X 0213:2000に対しては ( また、それを符号化方法ごと採用しようとした米 Apple社に対しても )、人権侵害だの文化破壊だのと騒いで来なかった面々が、同じ包摂基準のまま略字や誤字より正字を表に出した途端に騒ぎ出すのはどういうことなのでしょう。 率直に言ってこの論陣の全員の正気を疑います。

もっと遡って包摂自体を問題視するという手も無くはないですが、その方向性は現実的ではありません。 何故なら、とっくに包摂されていた問題の文字達はUnicodeにて日中韓統合されているからです。 再び「辻」について言えば、簡体字の一点之繞と韓国の二点之繞という異なる字形の「辻」が同じコードポイントに統合されており、日本の「辻」もここに統合されている。 他国の「辻」が統合されているところに同じ包摂基準で統合した日本の文字が、後になって「包摂なんてイヤです別のコードポイントくれ」は幾ら何でもないという訳です。 UnicodeのCJK統合については日本側が中心的役割を担って包摂基準を明確にしつつ進めて来たのですし。

もしここで、Unicodeから離脱して包摂基準から再構築した全く新しい文字セットを定義し、日本市場向け電子機器での標準採用を推したりしたら…。 日本語の文章は国際的な標準符号化規格から外れ、電子文書や通信の世界で日本語文化圏は分断化され断片化鎖国化していくでしょう。

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